ミドルマネジメントとは|必要なスキルと役割、育成方法まで解説

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この記事でわかること

ミドルマネジメント層として、経営層と現場の板挟みになり「自分は何をすべきなのか」と悩んでいませんか? 

プレイヤーとして優秀だったあなたが、管理職に抜擢されたのは素晴らしいことですが、マネジメントには全く別のスキルが必要です。

実務に追われながら部下を育成し、経営層への提案もこなす、この二重の役割に疲弊し、ストレスを抱える課長や部長は少なくありません。

本記事では、ミドルマネジメントの組織運営と意思決定に焦点を当て、役割と責任範囲を明確に理解し、必要なスキルを体系的に学べる実践的な内容をお届けします。

時間配分の最適化、効果的な1on1の進め方、経営層への交渉術まで、明日から使える具体的な手法を網羅しました。

人事担当者の方にとっても、効果的な育成プログラム設計のヒントが満載です。

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目次

ミドルマネジメントとは?

ミドルマネジメントとは?
ミドルマネジメントとは?

この章では、ミドルマネジメントの定義と該当する役職、トップ/ミドル/ロワー各層の違いを整理します。

読み終えると、自分の立ち位置と責任範囲を把握できるようになります。

この章で取り上げる主な論点は次のとおりです。

  • ミドルマネジメントの定義と該当する役職(例:課長・部長・マネージャー)
  • トップマネジメント(経営層)との責任領域・意思決定権限の違い
  • ロワーマネジメント(現場リーダー)との役割の違いと、橋渡しとしての機能

定義と該当する役職範囲

ミドルマネジメントとは、経営層と現場をつなぐ中間管理職を指します。

該当する役職は部長・課長・マネージャーなど。

経営の戦略を現場に落とし込み、現場の意見や課題を上位層へ伝える橋渡し役を担います。

ミドルは経営の意図を理解し、自部門の運営を戦略に整合させる責任があります。

指示を受けるだけでなく、部門状況に合わせて実行計画へと翻訳し遂行するのです。

役職範囲は企業規模や組織構造により異なります。

一般例として、部長は複数課を統括し部門戦略を実行、課長は特定の課を管理し日々の業務と目標達成を推進します。

要するに、抽象的な経営方針を現場で実行できる行動計画に翻訳するのがミドルの役割です。

トップマネジメントとの違い

トップとミドルの最大の違いは、「全社の方向性を決める」か「決まった戦略を実行する」かです。

トップは理念・方針を策定し、資源配分や事業の方向性を決め、ミドルはそれを部門戦略に落とし込み、日々の業務へ展開します。

例:トップ(社長・役員)は一般的に3〜10年の視点で事業戦略やM&A、予算配分を決めますが、ミドル(部長・課長)は四半期〜3年の視点で部門運営・人材配置・プロセス改善に取り組みます。

トップが「何をするか」を示し、ミドルは「どう実現するか」を具体化するのです。

経営の意図を正しく読み解くことが成功の鍵です。

ロワーマネジメントとの違い

ロワーとミドルの違いは、現場の直接実行に重心があるか、部門戦略の実行と組織運営に重心があるか、という点です。

  • ロワーマネジメント
    係長・主任・チームリーダー等で、現場への直接指揮と、日々の人員・予算管理を担い、ミドルが示した目標や指針の達成に向けて動きます。
  • ミドルマネジメント
    「戦略の翻訳者」として部門の方向性を定め、複数チームを統括します。

ロワーマネジメントが戦術の実行者として月次目標の達成や日々の営業活動の同行指導、作業品質のチェックといった短期的な戦術判断を行うのに対し、ミドルマネジメントは年間目標達成のための部門戦略策定や営業プロセスの標準化、各課長の育成計画立案といった中長期的な戦略判断を担うということです。

ミドルマネジメントとして効果的に機能するには、ロワーマネジメントとの適切な役割分担が重要であり、日々の業務判断を任せながら定期的に進捗報告を受け、必要な支援を提供する体制が求められます。

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ミドルマネジメントは何を担う?

ミドルマネジメントは何を担う?
ミドルマネジメントは何を担う?

この章では、ミドルが日々担う役割を具体的に解説します。

経営方針の落とし込みからプレイング業務までを整理し、優先順位の付け方を明確にします。

  • 経営方針を具体的なアクションに翻訳し、実行を推進
  • 部門内の意思決定と、合意形成の推進
  • 部下の育成と評価を通じた人材力強化
  • プレイングマネジャーとしての実務遂行と成果創出
  • 部門間の横断調整を行い、組織全体のリソース最適化を図る機能

経営方針の現場への橋渡し

ミドルマネジメント層の最も重要な役割は、経営陣のビジョンや戦略を現場で実行可能な具体的な行動計画に翻訳することです。

例えば「3年で売上20%増」といった目標を、現場が着手できる行動(例:訪問頻度、対応時間の目標)に落とし込みます。

例:営業は既存顧客訪問を月1→2回へ、CSは問い合わせ対応を24時間以内→12時間以内へ短縮、などの具体策を設定します。

同時に現場の課題や改善提案を吸い上げ、経営陣にフィードバックする双方向のコミュニケーションも担います。

この橋渡し機能を効果的に果たすには、経営層との定期ミーティングで方針の背景と意図を確認し、現場の言葉で翻訳した上で、実行状況を定期的に報告するサイクルが重要です。

部門内の意思決定と合意形成

ミドルマネジメント層には部署の意思決定と調整という重要な責任があり、その判断は現場の仕事に大きく影響を与え、組織の業績や将来性を決定します。

部門内では業務の優先順位づけ、予算配分、人材配置、プロジェクトの進め方など日々多くの意思決定が求められます。

例えば営業部門で年間予算500万円を配分する際、新規顧客獲得キャンペーンに300万円、既存顧客向けセミナー開催に150万円、営業ツール導入に50万円といった判断を、過去のROIデータを分析し部門会議でメリット・デメリットを議論して決定することが重要です。

近年は階層組織に加え、横断組織やマトリクス体制が普及し、調整の難度が上がっています。

効果的な意思決定には情報収集から選択肢の洗い出し、影響分析、そして決定理由を明確に説明してメンバーの納得を得るプロセスが必要です。

部下の育成と評価運用

部下の育成と評価はミドルマネジメント層の大切な役割であり、組織の未来を担う人材を育て適切に評価することでチーム全体の成長と成果向上を実現します。

業務を効率的に進めるには部下の能力や個性を見極めた上で適切な人材配置をする必要があり、そのためには部下の持つスキルや志向性を十分に把握しておくことが求められるのです。

例:1on1(例:月1回・30分)で進捗だけでなくキャリア志向や学びたいスキルを確認し、支援策を合意します。

新入社員には基本業務のOJTと週次の振り返り、中堅社員にはプロジェクトリーダーの機会提供、ハイパフォーマーには難易度の高い業務へのアサインといった成長段階に応じたアプローチが重要です。

人事評価は単なる査定ではなく部下の成長を促すフィードバックの機会として活用し、本人の自己評価を聞いた上で上司評価を伝えギャップを対話で埋めるプロセスを経て次期目標を合意します。

プレイングマネジャーとしての実務遂行

多くのミドルはプレイングマネジャーとして、プレイヤー業務とマネジメント業務を両立しています。

景気後退による経営難などの理由により人件費削減に踏み切る企業が増加し、直接的に売上を上げることのない管理職の数が減少した結果、現場の一員として売上に貢献するプレイングマネジャーの必要性が高まりました。

参照:産業能率大学「上場企業の部長に関する実態調査 2019年」

参照:産業能率大学「上場企業の部長に関する実態調査 (第2回)2022/02/08」

例:営業課長は、重要顧客対応などプレイヤー業務に40%、目標管理・育成・会議などマネジメントに60%を配分します。

2019年と少し前の調査結果ですが、課長の多くがプレイングマネジャーで、約6割が「プレイヤー業務がマネジメントに支障」と回答しています。

参照:産業能率大学「第5回上場企業の課長に関する実態調査」

両立させるには時間配分比率を明確に決め週次で振り返る、タスクの優先順位を重要度と緊急度で整理する、部下の成長機会として段階的に業務を委譲するといった実践が有効です。

部門間の横断調整とリソース最適化

各部門で連携するにはミドルマネジメント層による部門間の調整が必要であり、他部門の状況を把握し部門内で共有する役割を担い、そのためにはミドルマネジメント同士で連携を取らなければなりません。

現代の企業では一つのプロジェクトや業務に複数の部門が関わることが一般的になっており、営業・開発・マーケティング・カスタマーサポートなどの各部門が連携しなければ顧客価値を最大化できません。

例えば新商品開発プロジェクトでは営業部門が顧客ニーズと市場動向の情報提供、開発部門が技術的な実現可能性と開発期間の見積もり、マーケティング部門が市場ポジショニングとプロモーション戦略、カスタマーサポート部門がサポート体制の構築と想定FAQ作成を担当し、各部門のミドルマネジメント層が月次の調整会議で進捗を共有し、リソースの過不足を調整します。

年度末の繁忙期にカスタマーサポート部門の問い合わせが急増した際には、営業部門から2名とマーケティング部門から1名を一時的に応援配置するといった柔軟な対応も求められます。

効果的な調整には月1回他部門のマネージャーと情報交換を実施し、部門個別の目標だけでなく全社目標への貢献を意識することが重要です。

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ミドルマネジメントに求められるスキルは?

ミドルマネジメントに求められるスキルは?
ミドルマネジメントに求められるスキルは?

この章では、成果につながるコアスキルを解説します。経営方針の実行、部下育成、リスク対応など多様な役割に必要な能力を整理します。

  • 業務マネジメント力:計画立案、KPI設定、プロセス改善までを一貫して回す力
  • 人材マネジメント力:適材適所、育成、評価を通じてチーム力を高める力
  • コミュニケーション力:経営層への報告・提案、部下との対話、他部門との協働を円滑に進める力
  • ロジカルシンキング力:情報を整理・分析し、再現性のある意思決定につなげる力
  • リスクマネジメント力:予兆の早期検知、優先度付け、再発防止までを設計する力

業務マネジメント力(計画・KPI・改善)

業務マネジメント力とは、部門全体の計画を立案しKPIを設定して進捗を管理し、継続的に業務を改善していくスキルです。

最近は、目標達成や品質管理に加え、健康経営・働き方改革・エンゲージメント・リモート対応などのテーマが管理課題に加わっています。

限られたリソースの中で部門目標を達成するには、戦略的な計画立案と実行管理が不可欠であり、KPIを設定することで目標達成度を可視化しメンバーの行動を適切な方向に導くことができるのです。

例:営業では月間売上や新規獲得数などの定量指標に加え、顧客満足度などの定性指標も併用し、週次でレビューします。

業務改善では報告書作成に平均2時間かかっている課題に対して、テンプレート化や自動集計ツールの導入で平均45分に短縮し、そのベストプラクティスを他部門にも共有することで全社の生産性向上に貢献します。

人材マネジメント力(配置・育成・評価)

人材マネジメント力とは、部下の能力や個性を見極めた上で適材適所の配置を行い、成長を支援し、公正な評価を通じてチーム全体のパフォーマンスを最大化するスキルです。

組織の成果は個々のメンバーの能力とモチベーションに大きく依存するため、適切な人材配置により個人のパフォーマンスが向上し計画的な育成により将来の組織を担う人材が育ち、公正な評価により納得感とモチベーションが高まります。

現代ではメンバーの価値観やキャリア志向が多様化しており画一的なアプローチではなく個別最適化された人材マネジメントが求められています。

具体例:5段階評価のスキルマトリクスを作成し、企画力と調整力が高いメンバーを新規事業に配置。

育成では新入社員にOJTと週次の振り返りを提供し、中堅社員には小規模プロジェクトのリーダー経験を与え、ハイパフォーマーには難易度の高い業務をアサインするといった段階的なアプローチが有効です。

コミュニケーション力(上申・対話・交渉)

コミュニケーション力とは、経営層への上申、部下との対話、他部門との交渉という3方向のコミュニケーションを円滑に行うスキルです。

ミドルマネジメント層は経営層、部下、他部門という立場の異なる相手とコミュニケーションを取る必要があり、それぞれの相手が求める情報の粒度や伝え方は異なるため状況に応じたコミュニケーションスキルが不可欠です。

適切なコミュニケーションにより経営層からの信頼を獲得し、部下のモチベーションを高め他部門との協力関係を構築することができます。

経営報告の例:

  1. 現状(今月は目標比95%、未達要因は大口案件の延期)
  2. 課題(受注まで平均3ヶ月で機会損失)
  3. 対策(提案書の標準化と承認1段階削減で2ヶ月へ短縮見込み)

部下との対話では目標の共有に加えて背景を丁寧に説明し、達成のために新規顧客開拓の研修参加と大型案件へのサポートを提供しますと支援を明示することで、納得感を高めます。

ロジカルシンキング力(整理・分析・意思決定)

ロジカルシンキング力とは、複雑な情報を整理しデータを分析し論理的に意思決定する能力であり、情報を理解し専門的な知識や様々な能力を持って伝えられる力と、それを関係者を巻き込んで実行に導いていく力が必要とされます。

ミドルマネジメント層は日々部門運営に関する多くの意思決定を求められ、予算配分や人材配置、プロジェクトの進め方、顧客対応の方針などこれらの判断が部門の成果に直結するため論理的な思考に基づいた意思決定が不可欠です。

営業成績が低迷しているという課題に対しては過去6ヶ月の売上データを顧客別や商品別、担当者別に集計して事実を収集し、売上を訪問件数と商談化率と成約率と単価に分解して各要素を分析することで、商談化率が昨年比60%に低下し原因は提案書の質の低下と判明するといった構造化が重要です。

投資判断の要素:市場規模・成長率、初期投資・収益予測、競合・技術トレンドのリスクを整理し、回収期間やROIの基準に照らして決定します。

リスクマネジメント力(予兆把握・対処)

リスクマネジメント力とは、部門運営における問題の予兆を早期に察知し適切に対処してダメージを最小化するスキルです。

企業経営においてリスクマネジメントは欠かせない要素であり適切なリスク管理を怠ると企業の信頼性や競争力が損なわれ深刻な損失を被る可能性があるため、ミドルマネジメント層は現場に最も近い管理職として品質問題や納期遅延、人材流出、コンプライアンス違反などのリスクを早期に発見し対処する責任があります。

小さな問題の兆候を見逃すとそれが大きなトラブルに発展し顧客との信頼関係の喪失や売上の減少、組織の混乱につながるため予兆の段階で適切に対処することが重要です。

品質問題では製造現場で不良品の発生率が通常0.5%から1.2%に上昇していることを日常の観察で察知し、データ分析で特定の製造ラインで集中的に発生していることを発見し、現場担当者から最近機械の調子が悪いという声を収集した上で機械のメンテナンスを前倒しで実施することで大規模な品質問題を未然に防止できます。

実務:月次会議で潜在リスクを洗い出し、発生確率×影響度で優先度を決め、対策・期限・責任者を明確化します。

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どこでつまずく?ミドルマネジメントの典型課題

どこでつまずく?ミドルマネジメントの典型課題
どこでつまずく?ミドルマネジメントの典型課題

この章では、ミドルが直面しやすい課題と原因を整理し、解決の糸口を提示します。

  • 板挟みによるストレス:経営層と現場の要請が衝突し、心身の負荷が高い
  • 両立の難しさ:プレイング業務とマネジメントの両方で時間が不足
  • 成果の可視化不足:成果が数値になりにくく、評価に結びつきづらい
  • 抽象的な指示の具体化不足:経営方針を現場アクションに翻訳する難しさ

板挟みによるストレス過多

人事担当者と管理職層の両方が会社の組織課題の1位に、ミドルマネジメント層の負担が過重になっていることを挙げており、人事担当者では65.3%、管理職層では64.7%が選択し2020年から調査をスタートして初めて1位になったことから、板挟みによるストレスは現代のミドルマネジメント層が抱える最大の課題となっています。

参照:リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」

調査では、中間管理職の94.9%が「他の役職より負担が大きい」と回答。

要因は、部下フォロー、上司・経営との調整、部下とのコミュニケーションなどです。

参照:TUNAG「【1,300名に調査】中間管理職の負担に関する調査を公開」

経営層からは数値目標の達成や組織改革の推進、部下の育成を求められる一方で現場からは業務負荷の軽減や適切なサポート、キャリア支援を期待されます。

経営層には目標達成に向けて全力で取り組みますと答えざるを得ない一方で、現場にはなんとか工夫して頑張ってくれと依頼するしかなく、双方から期待に応えていないと感じられる板挟み状態に陥ります。

ストレスと業務負荷の蓄積は、心身の不調につながる恐れがあります。

早期の相談・対処が重要です。

実務とマネジメントの両立困難

プレイングマネジャーとして実務とマネジメントの両立を求められることは、ミドルマネジメント層にとって大きな課題です。

日本においては約9割のミドルマネジメント層がプレイングマネジャーであり、そのうち約6割がプレイヤーとしての活動によりマネジメント業務に支障があると回答しています。

プレイヤーとして優秀だったため管理職に抜擢されたものの、マネジメントスキルは別物であり、両方を高いレベルでこなすのは極めて困難です。

プレイヤー業務は自分の裁量で完結できますが、マネジメント業務は部下の状況に応じて柔軟に対応する必要があり予定通りに進まないことが多いためです。

例:午前は顧客対応、午後は相談対応・進捗確認・会議準備、夕方以降は提案書作成や面談。結果として長時間労働に陥りやすい構造です。

個人の売上目標とチーム目標の双方が評価対象となり、プレッシャーが高まりやすくなります。

成果が見えにくく達成感が得にくい

ミドルマネジメント層の仕事は成果が見えにくく、達成感を得にくいという課題があります。

戦略と現状の乖離や限られたリソースでビジョンを実現する難しさ、さらには十分な権限や支援を得るための複雑な承認プロセスなどがありこれらの問題が蓄積することで、責任や業務量からくるストレスが増し達成感を得る機会が少ない状況が生じやすくなっています。

プレイヤー時代は今月の売上3000万円達成や新規顧客10社獲得など、自分の成果が明確に数値化され達成感を得やすい環境でした。

しかしマネジャーになると部下の育成や組織風土の改善、部門間の調整といった成果が数値化しにくい業務が中心となり、自分の貢献が見えにくくなります。

成功は部下に帰属し、失敗はマネジャーが問われるという非対称性が、存在価値の低下につながることがあるのです。

部下の育成は成果が出るまで数年かかり評価されにくく、組織風土の改善は定量的な測定が困難で評価基準が不明確であり、部門間調整は調整がうまくいっても当たり前と思われ評価されないという状況が達成感の欠如につながっています。

抽象的な経営指示の具体化不足

経営層からの抽象的な指示を現場の具体的なアクションに翻訳することは、ミドルマネジメント層の重要な役割ですが、同時に大きな課題でもあります。

経営層はDX推進や顧客満足度向上、働き方改革といった方向性は示しますが、具体的な手段は現場に委ねられるため、ミドルマネジメント層がその翻訳に苦労します。

トップは長期の全社最適、ミドルは中期の部門最適を見るのです。この視点差が、指示を抽象的に感じさせる要因になります。

例:「3年でDXにより効率30%向上」なら、DXの対象、着手順、30%の測定基準、予算・人員の枠などを明確にします。

経営は「何をするか」を示し、「どうやるか」はミドルに委ねられることが多いです。

方針変更も想定し、仮説検証型で具体化を進めることが必要です。

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どう解決する?実務で使える手法

どう解決する?実務で使える手法
どう解決する?実務で使える手法

この章では、明日から使える手法を紹介します。

板挟みのストレスを減らし、マネジメントの質を高めることを狙います。

  • 時間配分と業務委譲:プレイヤーとマネジメントの配分を見直し、権限委譲で生産性を上げ
  • 効果的な1on1ミーティングの設計と運用:限られた時間で部下の成長を促し、信頼関係を構築する面談の進め方
  • 経営層への提案・交渉の進め方:現場の課題を経営層に伝え、必要なリソースや支援を引き出す交渉術

時間配分の最適化と業務委譲の進め方

プレイングマネジャーとして実務とマネジメントを両立するには、時間配分の最適化と業務委譲の徹底が不可欠です。

多くの課長がプレイング兼務で、約6割が「プレイヤー業務が支障」と回答。

まずは時間の使い方を見直しましょう。

まず1週間の時間の使い方を記録しプレイヤー業務とマネジメント業務の比率を把握した上で、上司と理想的な時間配分について合意します。

例:現状がプレイヤー60%/マネジメント30%なら、プレイヤー40%/マネジメント50%など、目標配分を合意します。

業務は、以下の4分類で整理します。

  1. 自分しかできない
  2. 自分がやるが委譲可能
  3. 部下へ任せる
  4. やめる

業務委譲は段階的に進め、委譲は「見せる→一緒にやる→見守る→任せる」の4段階で進め、部下の成長と自分の時間を両立します。

この案件は予算100万円までなら君の判断で進めていいと権限と責任を明確にし、初めてだから失敗してもいいその時は一緒に対処しようと失敗を許容する文化を作ることが成功の鍵です。

効果的な1on1ミーティングの設計と運用

効果的な1on1ミーティングは、限られた時間で部下の成長を促し信頼関係を構築する最も重要なマネジメント手法です。

月1回や隔週1回程度の、30分の定期的な1on1を適切に設計し運用することで、部下のモチベーション向上や早期の問題発見、キャリア支援を実現できます。

1on1を制度化すると、進捗確認だけでなくキャリア志向や悩みも話せる時間が確保できます。

例:30分のアジェンダ(5分:アイスブレイク/10分:進捗と課題/10分:キャリアと学習/5分:アクション合意)。

今取り組んでいる業務で一番やりがいを感じているのは何か、次に挑戦したい仕事や身につけたいスキルは何か、3年後どんな仕事をしていたいかといった質問により部下自身に考えさせることが重要です。

1on1は可能な限りキャンセルを避け、相手の話を最後まで聴きます。

助言より質問を増やし、部下主導の対話にしましょう。

経営層への提案・交渉の進め方

経営層への効果的な提案と交渉は、現場の課題を解決し必要なリソースや支援を引き出すための重要なスキルです。

ミドルマネジメント層は、上層部の意図を的確に現場に伝えるだけでなく、現場からのフィードバックを的確に収集し組織全体の改善に役立てることが求められますが、現場の声をそのまま伝えるだけでは経営層は動きません。

経営は全社最適で判断します。

部門都合ではなく、全社課題として定義し、解決策とセットで提案しましょう。

例えば、営業部は人手不足で困っていますという現場視点のみの提案ではなく、今期の売上目標達成には営業人員の増強が必要ですと結論から述べ、現状は営業5名で月間売上3億円だが今期目標は4億円で現状の生産性では達成困難であり、営業人員を2名増員することで売上4.2億円が見込め、人件費増1200万円に対して利益増3000万円が期待できると投資対効果を示します。

部下がとても疲れていますという感情論ではなく部下の平均残業時間が月60時間で業界平均の2倍ですと数字で語り、複数の選択肢を提示した上で推奨案を明確にすることで、経営層の意思決定を促すことができるのです。

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どう育てる?ミドルマネジメント育成のポイント

どう育てる?ミドルマネジメント育成のポイント
どう育てる?ミドルマネジメント育成のポイント

この章では、組織としてミドルを育てる方法を示します。

人事・経営の視点で、継続的に力を引き出す仕組みを設計しましょう。

  • 経営視点の育成:プレイヤーからマネジャーへの視点転換を促すプログラム
  • 求める人物像と行動基準の明確化:自社のミドルマネジメント層に期待する役割と行動を具体的に定義する方法
  • ストレスマネジメント教育の導入:板挟みによる過重負担を軽減し、心身の健康を保つ支援策
  • 長期育成プログラムの設計と定着:一時的な研修で終わらせず、継続的な成長を促す仕組み
  • 外部研修・学習機会の活用基準:社内リソースだけでなく外部の専門知識を効果的に取り入れる方法

経営視点を育む学習機会の設計

ミドルマネジメント育成の最重要課題は、プレイヤー視点から経営視点への転換を促すことです。

人事担当者から頻繁に聞かれる問題の一つに、優秀なプレイヤーをミドルマネジメント層に昇進させたものの、期待通りの成果が得られていないというジレンマがあり、この問題の核心はプレイヤーとミドルマネジメント層の役割の本質的な違いにあります。

プレイヤーは自分の担当業務で成果を出すことが評価されますが、ミドルマネジメント層は部門全体の成果や他部門との調整、経営戦略の実行などより広い視野が求められるのです。

例:エグゼクティブ・シャドーイング(3ヶ月、週1回・半日)。会議や商談に同行し、判断材料と視点を体感します。

また経営シミュレーション研修では、4名から5名のチームで架空の会社を経営し2日間の集中研修で、売上やコストや投資の意思決定を疑似体験することで、経営資源の配分の難しさや短期と長期のバランスの重要性を学べます。

さらに経営数字の読み方研修では財務諸表の基本や自社の経営数字の分析、部門の数字が全社にどう影響するかを全6回各2時間のカリキュラムで体系的に習得できます。

求める人物像と行動基準の明確化

自社のミドルマネジメント層に求める人物像と行動基準を明確に定義することは、育成の出発点です。

2025年3月実施のイベントでは、ミドルマネジメント層の役割定義についての議論が集中しており、戦略立案については部長以上で設計を行いミドルマネジメント層が戦術や実行部分を担当する形が理想的であることは各社共通の認識があるものの、組織規模や事業のフェーズによってもミドルマネジメント層に求められるものが変化することが指摘されています。

つまり、一般的なミドルマネジメント像ではなく、自社のこのフェーズで必要なミドルマネジメント像を定義する必要があるのです。

具体的には、ミドルマネジメント層のコンピテンシーモデルを策定し経営理解力や戦略実行力、人材育成力、対人影響力、変革推進力といった構成要素を明確にします。

行動基準はレベル別に明確化しましょう。

例:レベル1=目標の理解と説明/レベル2=経営戦略との接続と育成計画/レベル3=部門戦略の立案と次世代育成。

ストレスマネジメント教育の導入

ミドルマネジメント層の約95%が、他の役職と比べて負担が大きいと回答し、板挟みによるストレスと業務負荷が蓄積した結果心身に不調をきたし休職に追い込まれるケースも少なくないため、ストレスマネジメント教育の導入は組織の健全性を保つために不可欠です。

人事担当者と管理職層の両方が会社の組織課題の1位にミドルマネジメント層の負担が過重になっていることを挙げており、2020年から調査をスタートして初めて1位になったことから、この問題の深刻さが増していることがわかります。

具体的な導入方法として、ストレスチェックは年2回など定期実施し、高ストレス者には医師面談の機会を設け、業務負荷の見直しを行います。

セルフケア研修では、全4回各2時間でストレスのメカニズムと早期発見や認知行動療法の基礎、タイムマネジメントと優先順位づけ、リラクゼーション技法を学びます。

また、同じ立場のミドルマネジメント層が集まるピアサポートグループを月1回開催し、悩みを共有し解決策を話し合うことで、自分だけじゃないという安心感を得られます。

勤怠データを活用して長時間労働を把握し、必要に応じて医師面談の機会や業務量の見直し・改善策を行いましょう。

長期育成プログラムの設計と定着

ミドルマネジメント育成は、一時的な研修で完結するものではなく、昇格前から昇格後数年にわたる長期的な育成プログラムとして設計する必要があります。

ミドルマネジメント層に求められることがどんどん膨らんでおり、目標達成や品質管理、メンバー育成、組織力強化はもちろん、最近は健康経営や働き方改革、エンゲージメント向上、リモートワーク対応など経営方針の転換や強化を踏まえた管理業務が増加しており、これらを一度の研修で習得することは不可能であり継続的な学習が不可欠です。

3年ロードマップ例:昇格前=基礎研修・先輩インタビュー・小規模PJリード/1年目=新任研修・メンター面談・1on1・財務基礎(四半期ごとに人事フォロー)。

着任2年目には経営シミュレーション研修やエグゼクティブ・シャドーイング、部門横断プロジェクトへの参画を通じて、応用スキルの習得と経営視点の獲得を目指し、着任3年目には戦略立案ワークショップやコーチングスキル研修、後輩マネジャーのメンター担当を通じて自律的なマネジメントと次世代育成を実現します。

外部研修・学習機会の活用基準

社内リソースだけでは限界があるため、外部研修やビジネススクール、オンライン学習プラットフォームなど外部の学習機会を戦略的に活用することで、ミドルマネジメント層の視野を広げ最新の知識やスキルを習得させることができます。

ミドルマネジメント層にはリーダーシップやコミュニケーション能力、問題解決能力など幅広いスキルが求められるため、これらのスキルを向上させるための継続的なトレーニングが必要であり、経営層はミドルマネジメント層が自らの役割を十分に果たせるようリーダーシップ研修や業務改善のためのワークショップを提供することが効果的です。

外部研修の選択基準としては自社の育成方針と整合していること、実践的な内容で即座に業務に活かせること、受講者のレベルに合っていること、費用対効果が見込めることを必須要件とします。

階層別研修では、昇格直後のミドルマネジメント層を対象にマネジメントの基礎や役割転換を2日から3日間の集合研修で学び、費用は10万円から20万円程度です。

オンライン学習(例:Udemy Business、グロービス学び放題、LinkedIn Learning)を活用し、月1コース受講+社内共有のサイクルで継続学習を促します。

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まとめ

まとめ
まとめ

本記事では、ミドルマネジメントの役割定義から求められるスキル、直面しがちな課題と解決策までを網羅的に解説しました。

特に、多くの管理職が陥る実務とマネジメントの両立の困難を乗り越える鍵は、プレイヤーとしての視点から脱却し、時間管理と権限委譲を徹底することにあります。

部下の成長を促しながらチームの成果を最大化し、経営と現場をつなぐ重要な役割を担うには、企業全体の方向性を踏まえた的確な判断が欠かせません。

本記事で紹介した具体的な手法を、明日からのマネジメントにぜひご活用ください。

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